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2019.02.05    カテゴリ:  古人に学ぶ 

   五月

 
沖のうつくしか潮で炊いた米の飯の、どげんうまかもんか、あねさんあんた食うたことのあるかな。そりゃ、うもうござすばい、ほんのり色のついて。かすかな潮の風味のして。


舟の上はほんによかった。
イカ奴は素っ気のうて、揚げるとすぐにぷうぷう墨ふきかけよるばってん、あのタコは、タコ奴はほんにもぞかとばい。
壺ば揚ぐるでしょうが。足ばちゃんと壺の底に踏んばって上目使うて、いつまでも出てこん。こら、おまや舟にあがったら出ておるもんじゃ、早う出てけえ。出てこんかい、ちゅうてもなかなか出てこん。壺の底をかんかん叩いても駄々こねて。仕方なしに手網の柄で尻をかかえてやると、出たが最後、その逃げ足の早さ早さ。ようも八本足のもつれもせずに良う交して、つうつう走りよる。こっちも舟がひっくり返るくらいに追っかけて、やっと籠におさめてまた舟をやりおる。また籠を出てきよって籠の屋根にかしこまって座っとる。こら、おまやもううち家(げ)の舟にあがってからはうち家の者じゃけん、ちゃあんと入っとれちゅうと、よそむくような目つきして、すねてあまえるとじゃけん。
わが食う魚(いお)にも海のものには煩悩のわく。あのころはほんによかった。


あねさん、魚は天のくれらすもんでござす。天のくれらすもんを、ただで、わが要ると思うしことって、その日を暮らす。これより上の栄華のどこにゆけばあろうかい。



引用:苦海浄土 わが水俣病.石牟礼道子.講談社文庫

2019.02.03    カテゴリ:  古人に学ぶ 

   仙助老人とぶえんのいお


爺やん、あんた、百までも生きるような体しとって、腰ちんば引いて。石もなかところで、ぱたっとこけたりするとは、そらきっと水俣病じゃ。あんた目えにはまだ来んかな、目えはまだどげんもなかかな、こう爺やん。

なんばいうか。水俣病のなんの。そげんした病気は先祖代々きいたこともなか。
俺が体は、今どきの軍隊のごつ、ゴミもクズもと兵隊にとるときとちごうた頃に、えらばれていくさに行って、善行功賞もろうてきた体ぞ。医者どんのなんの見苦しゅうしてかからるるか。

そるばってん爺やん、ほらほら、せっかくの焼酎がいっこぼれてしもうて、地が呑んでしもうたが。こげんところつっこけて。目えもどげんかあっとじゃなかろうか。



この病にさえかからんば、あん爺さまは、きっと百まで生きらす爺さまじゃったよ。

そげんいやあ、あんわれ(あの人)も、ぶえん(無塩のとりたての魚のさしみ)の好きな人じゃったでのう。




引用:苦海浄土 わが水俣病.石牟礼道子.講談社文庫

2019.02.02    カテゴリ:  古人に学ぶ 

   仙助老人


今どきの軍隊のごつ、ゴミもクズもと兵隊にとっておらんじゃったころに、えらび出されていくさにとられた飛びきりの体ぞ。兵隊ちゅうても兵隊がちがうわい。風呂のなんの入らるるかい。ふやくる!


海ばたにおるもんが、漁師が、おかしゅうしてめしのなんの食わるるか。わが獲ったぞんぶん(思うぞんぶん)の魚で一日三合の焼酎を毎日のむ。人間栄華はいろいろあるが、漁師の栄華は、こるがほかにはあるめえが



引用:苦海浄土 わが水俣病.石牟礼道子.講談社文庫


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